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宇佐見英治さんのご命日

2002年9月14日に亡くなられた宇佐見英治さんの、今日はご命日です。

洋二郎の死後、同人誌『同時代』7号の中に、宇佐見さんは次のように書きました。

“胸中にさまざまな感慨が飛来して、とうてい短い筆紙では書き切れそうにない。やはりあの日の暗い風景をかいておくしかない。それは追悼にはならないかもしれないが、彼の死を思うと、世間に対する一種の憤りが私の胸にこみあげて来て、彼の芸術に対するどんな讃嘆よりも彼とともに、かんじたこの苦痛をかく方がはるかに誠実な感情だ、と思われる。

じっさい世間が彼をいじめまわした苦悩と、それらをこえて、なお人間に対する、世界に対する清純な愛情とが、たえず彼の胸中で格闘し、彼を勇気づけ、「生きているのが不思議だ」といわれた病苦の彼を生かし、この「無名の画家」を最後まで「本物の画家」たらしめたのだから。” 『眼の光 画家・島村洋二郎』p136より

 

一高、東大と進んだ宇佐見さんは、矢内原伊作、小島信夫、他と『崖』という同人誌を始めました。おそらく旧制浦和高校での友人だった岡本謙次郎の紹介で、洋二郎はその同人誌の表紙、カットなど描いたりしたのでしょう。

そのご縁が、1953年7月の洋二郎の死までずっと続くのです。

 

宇佐見さんは、私が初めてお会いした1986年3月の時から、ずっと変わらない穏やかで思いやりにあふれた方でした。

 

今思い返しても、宇佐見さんは、私の人生を照らす「灯り」でした。

 

無謀にも、「宇佐見英治没後十年展」を柏のハックルベリーブックスで開いた時、長女の真理さんが宇佐見さんの思い出を語ってくださいました。心に沁みる語りでした。

 

直子

 

  *宇佐見さんの文章は、現代仮名遣いに変えてあります。