「ほんとうに書くことは
単に他者にむかって語ることではなく、
他者のなかの未来に関与することだ。」
洋二郎の親友だった宇佐見英治さんのこの言葉に出逢ったとき、
私は胸を打たれました。
それからしばらく経ち、宇佐見さんからの手紙を読み返していて、次の部分に出逢い、衝撃を受けました。
・・・私は83歳になり、彼はあまりにも早く死にました。彼の こ とを知る人はあなたや私、ごく僅の人たち。も少し彼の作品を知る人が増え、二十世紀後半当初の彼の仕事の評価が高まり、次の時代に伝ええたらと願わずにおれません。
私には体力も時間もありませんが、どうかその願いが叶えられますように。
この手紙は、ペンで書いたものを読むのが困難になった宇佐見さんが、コクヨの便せんに一行おきに筆ペンで書いたものです。
亡くなる1年ほど前に頂いたお手紙に籠められた宇佐見さんの強い思いが、ずんと迫ってきました。
「他者のなかの未来に関与することこそ、ほんとうに書くことだ」と書かれた意味がストンと胸に落ちました。
2003年、2005年、2008年、2009年、2011年、2013年と、洋二郎展が続けて開かれたのは、宇佐見さんの「ほんとうに書いた言葉」の力だったのです。
2013年、柏のハックルベリーブックスで開いた「島村洋二郎没後六十年展」会場に、私は宇佐見さんのお手紙を額装して飾りました。
私の思いに気が付き、私に声をかけてくださった方がおひとりいました。
たった一人でも、気が付いてくれたこと、声を掛けてくださったこと、忘れられません。
直子